最適なサプライチェーンマネジメント(SCM)を実践するには、調達から生産、物流、販売に至るまでの現況をリアルタイムに俯瞰し、柔軟に変化対応できる仕組みが不可欠となる。そのためには、部門間や企業間をまたいだデータや業務プロセスをエンド・トゥ・エンドで相互連携させたデジタルサプライチェーンの構築が有効だ。

エンド・トゥ・エンドのデジタルサプライチェーンを実現

「SCMとは何かを端的にいえば、需要と供給のギャップをコントロールすること。需要変動に適切なタイミングで対応しながら供給をコントロールするためには、企業、組織、人をつないだ情報による意思決定が不可欠です」。そう語るのは、NTTデータグループのグローバルコンサルティングファームであるクニエの宍戸徹哉氏である。

 しかし、日本の製造業のサプライチェーンの実態を見ると、たとえば、販社(販売会社)が計画立案に必要な実績や外部情報などを電話やメールで収集し、表計算ソフトにまとめて工場に発注しているといった旧態依然のやり方がまかり通っている。

「このようなケースでは、手作業で情報をまとめるだけで手一杯で、計画内容を十分に検討している時間がありません。販社から仕入れ要求を受け取った工場も、販社側の販売計画や在庫計画の意図がわからない。したがって、製造遅延などのトラブルが発生したときに何を優先すべきなのかも判断がつかないのです」(宍戸氏)

 そのため、電話やメールで販社に何度も確認し、それでもらちが明かないと自分たちの判断で生産・出荷計画を決めてしまうことすらある。

左│NTTデータ 大居由博 AI&IoT事業部ソリューション統括部課長
右│クニエ 宍戸徹哉 シニアマネージャー

「その結果、生産量や納期が計画通りにいきそうにないと、現場力で何とか対応してしまう。これは、そもそもSCMにおけるプロセス、組織、人が分断されていることに根本原因があります。販売や生産などのデータは各領域に散在し、部門間をまたいで状況を把握できる人材もいない。その結果、計画に沿った供給ができなくなるだけでなく、問題が発生しても、どこに原因があるのかを突き止めることができないのです」(宍戸氏) 

 それぞれの領域が個別最適化された仕組みで運用されており、サプライチェーン全体を一気通貫で管理できる業務プロセスやシステムインフラが整っていないことも大きな課題だ。

「こうした問題を解決するには、サプライチェーンを構成する全部門、取引先を含む関係企業の業務プロセスやデータを標準化・共有化し、エンド・トゥ・エンドで状況を“相互に伝える”仕組みを構築する必要があります」と、宍戸氏は語る。

 SCMには最適な資産配置やオペレーションモデルなどを構想する「戦略領域」、モデルに沿って需要予測や生産計画、需給調整などを行う「計画領域」、計画に基づいてオペレーションを実行する「実行領域」の3つのレイヤーがある。宍戸氏は、「需要変動に柔軟かつ迅速に対応するためには、やれることに限度がある実行領域よりも、いつ、どこで、どれだけの需要があるのかを予測し、先手を打てる計画領域にデジタルを利かせるのが効果的です」と指摘する。

 そのうえで、「計画領域において、調達や生産、物流、販売などの領域を超えたエンド・トゥ・エンドのデジタルプラットフォームを構築し、人や組織風土も含めた根本的な変革を進めることが、SCMを変革する本質的なDX(デジタル・トランスフォーメーション)につながります」と提言する。